土曜の朝、夫が会議があると出勤した後で、
キデはのろのろとベッドから這い出た
先日の東京滞在ですっかり習慣付いてしまった
モーニングシャンパンをすべく
ハーフボトルのシャンパンを冷蔵庫から取り出すと
手慣れた仕草で栓を開けた
去年の春先に脳梗塞で長期の入院をした夫は
その後遺症で右手がいささか不自由になった
尤も、元々不器用な質でもあったのだが
そんな夫は、キデが奮発してシャンパン用の
高級なグラスを仕入れるたびに
手を滑らせて割ってしまう
だからと言って、キデ自身が代わりに
そのグラスを洗って管理すると言う
気持ちも毛頭なかったので
どこかの蚤の市で気紛れに買った
ステンレスのタンブラーに
先日宿泊した、The Okura Tokyo のソムリエが
勧めてくれた高級シャンパンを
惜しげもなくなみなみと注ぐと
ぐいっと一気にあおった
甘党ではないキデが珍しくお気に入りの、
Tokyo TULIP ROSE のマンゴーとストロベリーの
ランク・ド・シャをむしゃむしゃと
途中でシャンパンを挟みながら一気に平らげた
それから思い出したかのように
夫が作り置きしてくれていた
いささか黒く焦げすぎている、目玉焼きと
魚肉ソーセージをスライスして焼いたものを
口に放り込んだ
ふんわりと酔いが回って気持ちよくなってきたところで
キデはテーブルに開きっぱなしのノートPCを覗き込んで
つぶやいた
「そうねぇ、カジモト騒動で良かった点と悪かった点ねぇ…」
物事には必ず、いい面と悪い面とがある
一見、悪いことしかなさそうな事象にも、
敢えていい点を見つけ出そうとするのは
すなわち、今現在の自分のちっぽけな価値観、想像力に
挑むという、新しい自分に出会うための、
トレーニングであったりするのだ
そう、それを何度も厳しく教えてくれたのは、
キデの愛人四天王の一人でもあり、
キデのPT(パーソナルトレーナー)でもある、
教祖様だった
「あら、不思議」
思わずキデは声を出して一人で言った
「この世で出会うことには全て無駄がなくて
そこかしこに学びが散りばめられていると思えば
いい経験だったのかもって
なーんか、カジモトを恨む気持ち、
おイタをしてしまった自分を責める気持ちなんて
微塵もなくなってしまったわ
なーんか、不思議、今回の経験は良かったことしか
思いつかないの
もちろん、次につなげるための、反省点、猛省点は
いくつかあるわよ」
to be continued…
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