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(再)飽食のひと~その7~

メイクラブ

あたしが待ち合わせ場所の、パレスホテル東京の巨大なロビーで

 

ヒロシと落ち合ったのは、待ち合わせ時刻よりも30分遅れで

 

あたしの心服して止まないメンター、通称・教祖様と

 

あたしより実に2周りも年下ながら

 

うふふ、あたしと同じ匂いのする、T嬢との夕飯を終えた後だったわ

 

バタバタと忙しく動いては空回りしがちで

 

それゆえに至る所で良くも悪くもドラマを作り出しやすい

 

そーんなあたしとは実に対照的で鷹揚なヒロシは

 

他の愛人連中から「凡庸な先輩愛人」と揶揄されていたものの

 

珍しくまだ大雪が残る東京のホテルのロビーで

 

あたしからほとんど何の連絡もない中、約束の時刻を30分過ぎても

 

機嫌を損ねることなく居眠りしながら待ってくれていたわ

 

ほーんと、おおらかで人のいいヒロシに改めて感謝した瞬間ね

 

部屋に着くなり、あたしは体を締めつけない、

 

体に滑らかに沿うシルクのスリップドレスに着替えたいというのもあったけど

 

ランジェリーフェチでもあるヒロシを喜ばせたい、楽しませたいと言う想いもあって

 

あたしはさっさと洋服を脱ぎ捨て着替えたの

 

ヒロシに自分で飲みたいだけのお酒を必要なら買って来てと

 

事前にお願いしていただけあって

 

彼は何本か缶チューハイを持参していたわ

 

あたしは冷蔵庫に飲みかけのシャンパンを栓して冷やしていたのを思い出して

 

それを取り出してはヒロシに合わせて一緒に飲んだわけだけど

 

ポツリとヒロシはあたしにこー言って来たのよ

 

「お前って、いつでも前のめり気味なんだな」

 

「え、前のめり気味…?フフン、確かにそーかも知れないわね

 

でも、それがあたしの基本的性格、基本姿勢よ

 

だから、これまでもこれからも、ずーっとこの前のめりで行くわ」

 

「お前、相変わらず、すげーな、怖いもの知らずだな」

 

「そ?ふーん」

 

それからあたしたちは黙り込んで静かに各々自分のお酒を傾けたの

 

だからと言って、あたしたちが別に気分を害しているわけでもなければ

 

無言でいることを気まずく思ったりだとか、

 

詰まらないと思っているわけでもない

 

ま、あたし的にはもー少し刺激があってもいいとは思ったりしたけどね

 

何だか会話しなくてもそれが当たり前なぐらいあたしたちは寛いでしまって

 

そーそ、後であたしが彼のためにスリッパや部屋着を渡してあげたら

 

「何か俺たち、まるで夫婦みたいな感じだな」って

 

そのたびごとに彼が実際に独り言(ご)ちたよーに

 

あたしたちの間には、久々に念願の情事にありつけた愛人同士とは思えない

 

そーんな静か過ぎる間が流れていたわね

 

尤も、こちとら、ヒロシと夫婦だなーんて、キモくてごめんだけど!笑

 

だから、あたしはもー少しで彼に訊くのを忘れるところだったわよ

 

「ね、ヒロシ、新たに好きな女性が出来たからあたしと別れた筈だったのに

 

どーして、今回、あたしの誘いに何も迷うことなく応じたの?」

 

「そりゃあ、折角誘ってくれたんだから、応じるだろ?

 

それに、新たに好きな女性が出来たのではなくて、

 

俺が今の仕事に就いた時からずっと見守ってくれていた

 

恩人が危篤状態だったから何かあったら

 

何を差し置いてでも駆け付けたいと思っていたんだ」

 

「何、それ、それなら、あーんな誤解を招くよーな

 

言い方しなくても良かったんじゃないの?」

 

「誤解してるなとは思ったけど、もういいやって、そのままにしてた」

 

「あ、そ」

 

ま、今となっては済んでしまったことだし、もーどっちでもいいことだけど

 

「そー言えば、お前の旦那さんの具合はどーなんだ?」

 

あたしの夫は去年の夏、抗がん剤の副作用で敗血症を発症し

 

瀕死の状態で救急搬送されたことがあったの

 

あたしはその事実を彼に告げただけで

 

その後は忙しさにかまけて彼に何も報告せずに現在に至っていたわけ

 

尤も、ヒロシだって会議で職場でのあたしの上司でもある

 

うちの夫と何度も顔合わせしているわけだし

 

今更改めて報告することもないと思ったけどね

 

でも、一応ヒロシなりにうちの夫を気に掛けて

 

訊いてくれた以上あたしも答えたわ

 

うちの夫は腎がんステージ4だけど、

 

既にありとあらゆる抗がん剤は試してみて

 

今現在、彼に合う抗がん剤はなくて断薬していること

 

それゆえに、薬の副作用から解放されて、

 

今一番QOLが高い生活を送れていること

 

「ね、ヒロシ、覚えてる?

 

ちょーど1年前、あたしの誕生プレゼントに

 

嫌がるヒロシを説得してお願いして、

 

あたしがずーっと欲しがってた、手書きのラブレターを

 

ホントにヒロシは用意して、朗読までしてくれたこと」

 

「あぁ、覚えてるよ」

 

「うふふ、あれ、未だにあたしの宝物よ、今も大事に保管してあるの」

 

「そうか…」

 

「それはそーと、その1年前あたしに

 

『デートクラブを作ってみれば?』って言ったこと、覚えてる?

 

『お前みたいに性欲を持て余した40代女性はたくさんいる

 

実際、俺もそんな相談を受けたりすることがある』って言ったこと?」

 

「あぁ、覚えてる」

 

「あたし、そのデートクラブを作るつもりよ、

 

だからその目処が立ったら今の職場を辞めて、上京するわ」

 

「旦那さんも連れて行くのか?」

 

「そーね、夫はがんを患っているし、

 

何があっても最期は看取るって決めているから連れて行くつもりよ」

 

「そうか…」

 

「あたし暇つぶしがてら地元で男たちと

 

セックスに明け暮れるのも、もー飽きてしまったの

 

そんでもって、そんな男たちとのセックスを

 

嬉々としてブログに書くのも

 

もーすっかり飽きてしまったの

 

実際、ブログ記事をまとめて電子書籍にしたものが

 

今年の9月末頃に出版されるしね

 

それであたしの中では一区切りついた感じよ」

 

「そうか…いろんなことに向けて、動き出したというわけだな」

 

「そーね、だからこーして前乗りして上京していたりもするわね」

 

いくつも会社を経営するヒロシはさすがにあたしが突飛だと思われることを

 

どんなに言っても決して動じることはなかったわね

 

それに第一、あたしたちはどんなに会わずに過ごしていよーとも

 

それが一旦こーして会ったりすると、

 

この間の不在がまるでなかったかのよーに

 

そ、あたかも昨日別れて今日また会ったかのよーに

 

不在の時を飛び越えて直ぐにつながり合える、

 

そんな不思議な感覚を互いに共有し合っているの

 

そ、ヒロシとあたしは愛人と言うよりかはやはり同志に近いわ

 

その後、ヒロシのビジネスについてあたしが質問したりなどして

 

さらに少し話をした後であたしは思い立って席を立つと

 

向かい側のヒロシのところまですたすたと行き

 

椅子に座るヒロシの膝に軽く腰を掛けたの

 

ランジェリーフェチのヒロシのために大きくくれたスリップドレスの

 

レースであしらわれた胸元をわざと彼に見せつけるよーにしながらね

 

すると彼は指先でそっとあたしの胸元を触れたわ

 

「あたし、先にお風呂に入るわね」

 

そー言って、あたしはすっと立ち上がると

 

やはりすたすたとビューバスの浴室へと向かったのよ

 

「俺は外のバルコニーでタバコを吸ってくる」

 

ヒロシは携帯用灰皿を取り出すとバルコニーに出て

 

いくつもの摩天楼と対峙する

 

あたしが東京で一番のお気に入りの夜景を眺め入りながら

 

きっと美味そーに煙を吐き出していた筈よ

 

 

うまい具合に角度のマジックでお風呂場の窓からは

 

互いの姿が見えないよーになっていたけどね…

 

to be continued…

 

 

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