午前3時過ぎに降り立った、ホテルのロビーは
予想どーりにひっそりと寝静まったかのよーで
別にこちとら何もやましいことはしていないつもりだけど
それでもエレベーターからフロント前を横切る時
ホテルスタッフに見咎められやしないかと
ちょっぴり緊張してしまったわね
でも、さすがにこの時間帯だとホテルスタッフも
バックヤードに引っ込んで仮眠でも取っているのか
フロントデスクにはあたしから見る限り、
人っ子一人もいやしなかったけど
そ、あたしは密かに恐れていたの
あたしは半年前に初めてマコトと知り合ったきり
その間の紆余曲折ぶりを想えば、
まさに今回のこれが奇跡の2回目の再会となるわけだけど
正直、それだけにマコトが泥酔してしまうと
どのよーに豹変してしまうのか全く未知なる状態であって
この静寂(しじま)のホテルロビーで一体どんな振る舞いで
久々に再会するあたしと対面するのか
自然と少し身構えてしまっていたわ
果たして、このマコトと言う男は、酒癖いいのか悪いのか
だって、あたしの現夫は注射のアルコール消毒にさえも
アレルギー反応を示す、筋金入りの下戸だけど
前夫は、酒癖悪く、酔うとやたらあたしに絡んで
人前だろーと気にせず、
あたしの体をベタベタと触りまくったものだから
…尤も、あたしの経験則上、
男は少し下品なぐらいが味わい深いけどね
あ、ちなみにあたしは酔うとすっかり陽気になっちゃって
元々大きい地声が更に大きく饒舌になってしまい、
おほほ、周囲近隣の皆々様に
たーっぷりご迷惑をお掛けするタイプです
そんなあたしのことはさておき、
色んな想いがこみ上げてドキドキしながらホテルロビーに向かうと、
マコトは酔いでしょぼついた目で静かに立っていたの
うふふ、相変わらずの、平成初期辺りに流行った、
濃ゆ~い、サル顔は健在のままでね
そんでもって、あたしは背の低いタツノスケ師範に慣れていたせいか
以前会った時よりも、173㎝の彼を随分と高身長に感じたの
「あら、このマコトみたいにどこの馬の骨か分からぬよーな
そもそも宿泊客かどーなのかも疑わしい、
さも怪しげな男をあっさりと通してしまうぐらいの
セキュリティーの緩さなんだ、ここは」
と、少し驚きもしながら思ったりして
そして、そんなマコトにあたしは何て声を掛けたらいいのか分からず
取り合えず、「お久しぶりね」とだけ言っておいたわ
マコトはそれには答えず、
踵を返してエレベーターに向かうあたしに大人しくついて来たの
エレベーターの中ではお互い無言のままで
あたしはそれをいいことに、まじまじとマコトを眺めていたわ
見覚えのある、カナリーイエローのスエードスニーカーに
白の長袖Tシャツ、それからちょっと女子のアイテムっぽい
毛足の長いシャギーのベージュのパーカー
それからチノパンと、やはりこれまた女性も提げていそーな
くすんだターコイズカラーの小さなリネンのトートバッグ
賑やかな色使い、素材使いは、おおよそシックな東京人らしからぬ奔放さね
「うふふ、自由人らしー、実にマコトらしーわ」
と、あたしは人知れず微笑んでしまったの
でも、マコトはそんなあたしに気付きもしなかった筈よ
だって彼ってば、エレベーターの壁にもたれてずっと目をつむっていたから
やがて、あたしの部屋にたどり着いて入るなり、
マコトはいきなりその場で一気に洋服を脱いで全裸になったの
そして、あたしのことなどお構いなくベッドに潜り込んだわ
あたしもそんなマコトを尻目に、無言で洋服を脱ぐと
さっとサテンシルクのスリップドレスに着替えたの
てっきり、今夜はこのまま添い寝だけして終わると思い込んでいたのよ
…舐めていたわね、泥酔した男の質の悪さを…
寝入っていたと思われていたマコトは、あたしが布団に入るや否や
酒臭い鼻息を浴びせかけながら、あたしに近寄って来たの
「イヤ!こんな酒臭い、しかも明らかに歯磨きさえしていない
こんな男とキスするのは、フレンチ・キスでさえお断りよ!」
って、言わんばかりに顔を背けてやったら、
そこは案外大人しく引き下がったのか、
今度はあたしの胸元まで降りて来て、
あたしのおっぱいを吸おうとするのが分かったから
あたしはそんなマコトの顔を押しのけながら言ったの
「マコト、するつもりなの?
そんなに酔っているのに、出来るの?
それならいいわ、まずはお風呂に入りましょ
あたしもまだ入っていなかったの」
「…しゃぶれ、しゃぶれ…」
マコトは布団の中から、くぐもった声で呪文のよーに繰り返してる
「は?」
フン、勝手にほざけって、あたしは全然相手にしなかったけどね
ハッキリ言って、今夜、
あたしはマコトと奇跡の再会を果たしたつもりで
その感動を互いに噛み締め合うどころか、
まだ一言も会話らしー会話、まともな挨拶さえも出来ていやしないわ
そんでもって、明らかにあたしを無料風俗のオネーチャン扱いしてるし
ここで初めて、こんなことになることは薄々分かっていたのに
それでも敢えて受け入れてしまった自分を一瞬呪ってしまったけど
ま、それも後の祭りね
「こーなったら、面白い!
この男がどんだけのゲスっぷりを見せてくれるのか、
今夜しかと見届けてやりましょ」
って、にわかに愉快な気分になってきたわ
あたしはそこでまたお得意の不敵の笑みを浮かべると、
お湯を張るべくして、バスルームへと向かったの…
to be continued…
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