ゆーや、おつかれさん
さ、今夜も、愛人帝王学のレクチャー始めるわよ
もう今夜は、ゆーやの発言は受け付けませんからね
昨夜、ゆーやは好き勝手に発言するだけして
それでやっとレクチャーの本題に入ったと思ったら
文字数の関係であまり進行できずに、
「次回へ続く…」ってしたら、
挙句の果てには、
「ボクの好きなアニメの、ドラゴンボールなみの、
話の引き伸ばしっぷり」
ってまで言われてしまったから、
今夜はこのままレクチャーを強行します
ホント、そーやって一言多いところ、
段々とトオルに似てくるわね…
さて、2回目の東京出張の夜、
私が小さなシャンパンバーで
1人で飲んでやや出来上がったところへ
私に呼びつけられた、素面のヒロシが
やって来たところで終わっていたわね
あたしが飲んでいたバーは本当に小さなバーで
店内に小さな細長いテーブルが1台どーんと
置かれてあるだけで、そのテーブルに
客は対面でどんどん座っていくって感じね
シャンパンがメインだったけど、
もちろん他のアルコールやソフトドリンク、
軽食も気軽に頼めたりした
カフェバーって感じでもあったわ
あたしが入店したのは夕方の5時を
過ぎたばかりだったけど既に店内は混雑していて
紅茶にクラブハウスサンドを慌しく食べて引き上げていく、
独りの女性客も多かったわね
でもやがてそんな客もいなくなって
店内にはあたしと同じようにゆーっくりと
色んな種類のグラスシャンパンを楽しむ
あたしと同い年か少し年上の女性の2人組と
やはり同じような感じで少し若い別の女性の2人組と
あとは、老けた感じに見えたけど、
意外とあたしより若いかもしれない男性と
明らかに彼よりかは若すぎる女性のカップル
その3組とあたしとで狭い店内は混雑していたわ
そしてその狭さからくる圧迫感を
少しでも解消しよーと道路に面した大きなドアは
折からのコロナの脅威もあってずっと開け放されていて
忍び込んでくる、外の雑踏の賑やかさで、
店内の客同士の会話のプライバシーは
適度に保たれていた筈だったのよ、ヒロシが来るまではね
そこへ、何度も言うけど、素面のヒロシがやって来たの
ヒロシは私の隣に座ると、あたしが何度も勧めたにも拘わらず
それを断って、グラスビールを頼んだわね
そもそもヒロシはシャンパンみたいな甘めの酒は
端から拒否して飲んだことがないのか
一度職場の飲み会でシャンパンが出て
ヒロシにグラスに注いでもらったことがあったけど
何と、アイツはシャンパングラスに並々と
グラスの縁ギリギリまでシャンパンを注いできたのよ
シャンパンを飲まないアイツは、
せいぜい気の抜けて泡の立たなくなったビール
ぐらいにしか思っていなかったのでしょーよ
その時は、彼の無作法ぶりにマジ引いてしまったわ
…でもね、あたしもしっかりとこの店で
粗相をしてしまうから
そんな偉そうなことは言えないのだけどね
ヒロシの頼んだビールと軽食が来たところで
しばらくはごにょごにょと、
挨拶代わりの他愛ない世間話を
していたような気もするけど
何せこちらは酔っていたものだから、
ほとんど覚えてなんかいやしないのよ
この記事の執筆のために、
今からヒロシにその当時のことを
確認することも出来たけど、
でもね、このことがあってからしばらくは
会うたびにヒロシに
「お前は情緒なるものがない!
お前は恋愛下手だ、これまでロクな恋愛を
してこなかったに違いない!」
とかって、説教されてばっかりだったのよ
余程、この時にイヤな思いをあたしからさせられたのね
フフフ…あたしはほとんど覚えていないから
知ったこっちゃないのだけどねー
それに、そもそも情緒って何よ?
あんなの、見当違いの推測ってヤツでしょ?
情緒っていう名のもとに、
相手の気持ちやその場を雰囲気を察しろと言われるのは、
とても傲慢な感じがしてあたしは大嫌いなのよ
大体そーやって推測してみたところで、
一度も当たった試しなんかないしね
やっと最近、そんなヒロシもこんなあたしに
何を言っても仕方ないと諦めたのか
何も言わなくなってきたから、
ホッとしているのに、
いくらブログ記事の取材のためだからと言って
またそこをつついてヒロシを刺激するのも
イヤだから、あたしの曖昧な記憶をたどって
このまま書いてみるわね
ウォーミングアップのためのような世間話が済んだところで、
あたしは待ち構えたかのよーにストレートにヒロシに訊いたのよ
「ね、ヒロシ、今夜、私と
メイクラブをするつもりある?」
ヒロシはギョッとしてあたしのことを見たのを覚えているわ
だけど、これ以上に何か説明することある?
だって、2年前にもお互いに下心があって
ホテルのバーで密会をしたわけじゃない?
そのときは残念ながら未遂に終わってしまったけれど
それにね、あたしはこの後、
人一倍多い私物の荷造りが
ホテルの部屋で待っていたのよ
その時間のことも加味した上で、
ヒロシとのメイクラブに割ける時間
だなんてごくごく限られてくるわけ
ここでちんたらかんたら思わせぶりな男女の会話を
楽しむヒマなんてありやしないのよ
もー、その時期はとーに済んでしまっているの!
2年も前に!
なかなか返事をしないヒロシに、
元々地声が大きく、既に酔いが回っていたあたしは
自然とここでもまた声が更に大きくなっていたのでしょうね
「ヒロシ、どっちなの、するのしないの?
私たちには時間がないの!
あたし、この後、ホテルに戻って
荷造りしなければならないのよ
分かってるわ、ストレート過ぎて無粋なのは
…もちろん、ヒロシにも断る権利はあるわよ
だけど、どっちなのか、ハッキリとして!
一体、あたしとメイクラブをする気があるのか
ないのか、えぇい!どっちなの?」
開け放されたドアから忍び込む、
雑踏の賑わいで客同士の会話のプライバシーは
それなりに保たれている筈だと思ったけど
なぜか店内中の客が会話を停止して
みんな一斉にあたしとヒロシをポカンとして見ていたわね
そーね、やたら客と目が合うなとは思ったけど
あたしはすっかり狩人モードに入っていて
恐れなど知らぬ無敵状態だから
ほら、例のごとく、
一切そんなことなど気にもならなかったわ
挙句の果てには、30代ぐらいの
バーテンにしてはもっさりとした小太りの
おにーちゃんまで銀のお盆を片手に
器用に身をよじらせてあたしたちの成り行きを
見守っている、そんな感じだったわ
とにかく、あたしだけじゃなくて
店内中の人間がヒロシの次の返事を
固唾を飲んで待っているって感じだったわね
それなのに、ヒロシったら、
なかなか何も言わないのよ!
どーいうつもり?!
敢えて思わせぶりに間を取って、
ここでのドラマティックな効果でも狙っているわけ?
いい加減こちらもイライラして来た頃
ヒロシがようやく観念したかのように言ったのよ
「…いいよ、分かった、…するよ」
ヒロシにここまでこんなにも焦らされたあたしは
ここで拍手喝采が起きても不思議ではないぐらいの
達成感を噛みしめていたわね
ちなみに、随分後になってから、
「どーしてあのとき、
なかなか返事をしてくれなかったの?」
って訊いたら、
「あの物言いは、どー考えても口説きじゃなくて、
ほぼ脅し、詰められてると思ったから」
って言われてしまったわ
…別にいいのよ、
欲しいものは手に入れたわけだし
あたしは細かいことは気にしないわ
ヒロシの承諾を得た以上、
ここでこれ以上時間を潰しているのは
実に勿体ないと、あたしは意気揚々とヒロシと
腕を組んで店を出たというわけ
うふふ、その間も店内の客は
ずーっと黙り込んでそんなあたしたちの
一挙手一投足をじーっと見守っていたけどね
あら、もーこんな時間
今日のレクチャーはここまでよ
この続きは、また明日ね
しっかりと学んで、
素敵な愛人さんになってね♡
間違っても、トオルみたいな
ポンコツ愛人になってしまってはダメよ
それでは、またね〜
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