その夜、第4愛人であるゆーやから
Kakaoでメッセージがあった
「ふと思ったけど、キデさんは、
Kidechan’s men のメンズに
彼女やセフレがいたりしても平気なの?」
「全然平気!
むしろ、もっと楽しめって思うわw
病気さえ持ち込まなければ」
ゆーやへの返信を打ちながら、
そこで一旦キデは手を止めた
そして昼間に慌ただしく逢瀬した
トオルのことを思い出しながら入力した。
「…でも、トオルだけはダメ!
不合理なのは百も承知で、ダメなの
彼にも実際、そう言い付けているのw」
キデは未だにトオルに対する
この執着のような気持ちの正体を見定められずにいる
トオルへのこの気持ちは
一体どこからやって来て
どこへ向かうのか?
何だかその得体の知れない強い感情に
キデは自分を脅かされてしまいそうで
一時はその正体を懸命に探ろうともした
でも、全く何も分からないのである。
実際、トオルにも
「どうしてこんな不甲斐ない自分を
こんなにも好きでいてくれるの?」と
度々訊かれることがあった
出逢った頃はキデなりに好きな理由を説明することが出来たが
今となってはもうそれさえも見失ってしまった
ただ、訳も分からず好きなのだ
反対にキデが同じ質問をしたら、
トオルもどうしてキデのことが
好きなのか分からないと答えたように。
人は、好きになれば好きになるほど、
自分の内部のエネルギーに突き動かされて
もはや、その理由さえ見失うのかも知れなかった
だから、今ではトオルに執着する理由を
探ることをきっぱりと止めた
これまで多くのメンズとの出会いを繰り返し
その中でKidechan’s men として残ったメンズは
何かしらキデに対して使命と役割を与えられた
言わば選ばれしメンズだとキデは信じて疑わない。
だとしたら、きっとトオルは私に対して
「情愛」を教えるために遣わされたメンズね
もう、そう思うことにした
成熟して精神的に自立した
大人の女になったからこそ、
時としてヒリヒリするような切なさを
感じながらも、いいえ、それをも込みで
自分の選択と決断の元に、自己責任で
1人の男にここまで執着して飢えて貪って
それを楽しんでいるの
大人の女であるからこそ味わえる醍醐味ね
この情愛の行き着く先は一体どこなのか
徹底的に見届けてやりましょう
ゆーやからのKakaoは続いた
「…それはそうと、もし僕との缶詰逢瀬の日に
トオル兄さんからお誘いあったら、
キデさんはどうする?
もちろん、トオル兄さんの予定がその日しか
空いていないという条件やけどw」
ゆーやのそのメッセージを見て、苦笑せずにはいられなかった
なるほど、そう来るか…
なぜなら、キデ自身も若かりし頃
当時の愛人や恋人に散々その手の
たられば質問をして、相手を困らせて来たことを
思い出さずにはいられなかったからだ
もちろん、成熟した大人の女になってからは
そんな実にくだらないことを一切しなくなったが
年上女性に手放しで甘えたいというゆーやは
繊細過ぎて、気が利きすぎて、
持ち前のそういう損な気質なせいで
どうやらこれまで彼の思い通りに
甘えてこられたような感じは受けないのだが、
こうしてたらればの質問をして彼なりに
私に甘えているのかも知れないと思うと
そんなゆーやが可愛くもあった
こちらの思惑など一切無視して甘えて来る
甘えん坊将軍のトオルとは実に対照的で
オトナの男性過ぎて、甘えきれないゆーやなのだ
尤も、トオル以外の愛人四天王のメンバーはみな、
成熟して自立した大人の男ばかりであったが
だからこそ、いつまでも経ってもトオルは
他の愛人連中から末っ子扱いされてしまうのだ。
そこでキデなりの誠実さをもってゆーやの質問に答えた
おべんちゃらでゆーやだよって
答えたところで、キデに負けず劣らず
文章に対して鋭いセンスを持っている彼のこと
すぐさまそれを見抜くことだろう
「そうね、今時点なら紛れもなくゆーやを優先するかな
だって、散々こうして書くことで、
トオルとの逢瀬を再体験して、
実は既に飽き飽きしてるのよね
ゆーやとは、トライアル以来、まだ逢えていないから
次に逢ったら、どんなメイクラブになるのかなって
未知数なだけにワクワクするしね」
それで勢いを得たのか、
ゆーやは更に突っ込んだ質問をしてきた。
「多分、トオル兄さんが完全無欠のメンズに進化したら、
愛人四天王は不要になってしまって
解散の危機もあったりするのかな?」
なかなか面白い質問をしてくるわね
キデはトオルが完全無欠のメンズに
なったところを想像してみた
…っていうか、完全無欠って
どういう状態を言うのよ?
もっと今よりマメに、効果的な殺し文句が
ふんだんに盛り込まれたラインを送ってきて
こちらが逢いたいときにもれなく逢えるということ?
そんでもって、中折れ知らずのPを持っていること?
それを想像して咄嗟にキデの口から出て来たのは、
「気持ち悪い!!」であった
イカレポンチで甘えん坊将軍で、
ラインの返事もなかなか寄越さずイライラさせられるけど
自分は違うと頑なに否定するけど、
実はみんに知られてる、ヤキモチ妬きのところこそが
今となっては、トオル の 魅力なのだ
そんでもって、常に中折れ状態で私に甘えて
Fばかり求めてくるところもw
いつでも自分の思い通りにならないところが
キデの気持ちを否応なしに盛り上げてくれるのだ
実はそんなところを楽しんでいる節さえある
彼からの見返りを求めて
彼を愛しているわけではない
ただ、自分がそう望むから、彼を愛しているだけなのである
トオルには実に不思議な感覚で執着しているけど
だからと言って、
トオルがキデの全てではない
何もかもかなぐり捨てて、トオルと再再婚したいとも思わなければ
今すぐトオルのアパートに押しかけて
居座って現地妻になりたいとも思わない
むしろ真っ平ごめんだ
キデはどこかで分かっていた
予め自分の決めた範囲で
トオルへの情愛&性愛を楽しんでいることを
きっとこれは今しか味わえぬ楽しみだろう
これは何もトオルだけに限らず、
どのメンズに対してもそうなのだが
いつ逢えなくなるかも知れない、
ひょっとしたら今回限りかも知れない
そんな切なさを背負って、いつでも一期一会のつもりで
全身全霊傾けて目の前のメンズとの逢瀬を満喫するキデなのだ
それから、仮にトオルと1対1で交際したとして
熱しやすく冷めやすい、2人のこと、
直に互いに相手に飽いてしまうのは目に見えていた
私は本当に気が多いから、
幕の内弁当みたいに、ちょっとずつ
色んなメンズの色んな個性を楽しみたい。
だから、間違っても
Kidechan’s men の解体もないし、
愛人四天王の解散もないの!
トオルに限らず、私にとってメンズは
完全無欠 = 無個性
につながるの
その彼にしかない、
でこぼこな個性で私を魅了して
楽しませてくれないとつまらないわ
キデは次々と溢れて出る思いを整理しながら
ゆーやへの返信を打ち始めたのだった…
THE END
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