キデとトオルの二人は腕を組んだまま
昇り専用のエレベーターに乗ると
選んだ部屋に入った。
キデはバッグをテーブルに置くと、
ベッドの縁に腰を下ろした。
トオルは、キデのために用意した炭酸水を置くと、
いそいそと風呂場をのぞきに行った。
「ここはバスマットなかったね
でも、あったとしても、時間が限られているから
使うヒマなんてないか」
そんな少し残念そうなトオルの言葉を聞いて
キデは人知れず思った。
他のメンズとまたここのホテルへ来て、
万が一バスマットを見つけたなら、
その時はしっかりと部屋番号を覚えておくわ、と。
「いっつもキデばっかり、色んなメンズと
メイクラブを楽しんで、ズルいぞって
そう思ったら、無性にキデとしたくなって
逢いに来たんだ♪」
トオルは逢瀬のたびにキデにそう明るく言った。
そして、いつの間にかトオルはキデの隣に来て
キデをいつものようにそっと押し倒すとキスをした。
いつでも逢瀬の直前にそれぞれシャワーを済ませておく
2人だったので、今更体を洗う必要もなかった。
限られた時間での逢瀬の二人は、
その時間さえも節約したかった。
唇が重なるやいなや、
キデはトオルの舌が差し込まれるのを待たずに
口を開いてトオルの舌を出迎えに行った。
キデの方から自分の舌を何度もこすりつけるように
トオルの舌に触れた。
そうかと思えば、トオルの舌の反応を楽しむかのように
脱力して、トオルの舌先に軽く触れたりした。
飽きもせずにそんなことを繰り返していた二人は
トオルがやがて息継ぎのために
キデの顔から少し離れた時
キデは無意識にだが、そんなトオルを離すまいと
既にトオルの首に回していた腕に力を込めた。
トオルもそんなキデにそそのかされて
再びキデの唇へと降りてくると、
今度はキデの舌を吸った。
「もっと強く吸ってくれればいいのに。
私の舌先が麻痺してしばらくは
ろれつが回らないぐらいに」
一度キデはトオルにそう言ったことがあった。
「どれぐらい強く吸ったらいいのか分からない、
これでも精一杯強く吸っているつもりなんだけど
でもこれ以上強く吸ったら、
何だかキデが壊れてしまいそうで…」
そう答えたトオルらしく、優しくキデの舌を吸った。
代わりばんこで今度はそんなトオルの強度に合わせて
キデがトオルの舌を吸った。
キデはトオルのキスを受けながら、
トオルの首に回していた両腕のうち右腕を外すと
キデの頭上にあるだろう、
トオルの手を目指してもぞもぞと動かした。
トオルもそんなキデの手にすぐに気付いて、
キデの手を取ると、指を絡めて握り返した。
性欲に駆られてというよりかは、
何度も言うように、
2人はあたかもシャム双生児であるかのように
分離してあることが不自然な状態と言わんばかりに
常に接触できるところがあれば、
貪欲にそれを求めて、片時たりとも離れまい
離すまいとお互いにしがみついてる
そんなところがあった。
互いにキスを貪り合って、一旦満足したのか
トオルが身を起こしてキデから離れると
2人は無言でしかし急いでいささか乱暴に服を脱いだ。
トオルのために春の陽光めいた、
白の繊細なレースが贅沢に施された
サテンのランジェリーを選んで身に着けてきたが、
今はその下着さえも二人を隔てる
障害物のように思えてならなかった。
精巧な作りのランジェリーにありがちな
着脱のしにくさにイライラしながらも
どうにか脱ぐと、
キデは下着を置きに行く間さえ惜しく
ベッドから離れたソファに向かって
ランジェリーの塊を放り投げた。
ベッドからソファはゆうに2mは離れており、
キデのおぼつかない腕力では決して届くまいと
分かってはいたのだが。
はらはらと巨大なランの花びらが舞い散るかのように
ランジェリーの塊は、キャミソール、ブラ、ショーツに
それぞれ分かれて、ベッド近くの床に落ちた。
全裸になったトオルは
キデのランジェリーを搔き集めると
それを慌ててソファへと持って行った。
遅れてトオルがベッドの中に入って来ると
キデは待ち構えていたかのように
トオルのうなじに両腕を回した。
トオルもそんなキデに応えるように、
両腕でしかとキデを抱きしめた。
そして二人はまたもや飽きもせずに
キスを求め合った。
常々、メンズの数だけ愛撫があって
メンズの数だけ多様なメイクラブがあると
唱えるキデは、キデの要望10か条から
大きく逸脱しない限りは
相手の愛撫の個性を楽しむべく
相手に身を委ねるのだが、
今回に限っては、
トオルからの愛撫を待つのだけでは
もどかしくて物足りず
キデから何度も貪欲にトオルの舌を吸った。
今度はそんな積極的なキデに身を委ねるかのように
トオルはキデに吸われるがままにした。
ひとしきり吸ってキデが満足すると
今度はその時を待ち構えていたかのように
トオルの舌がキデの舌をこするように絡めて来た。
やがてトオルも満足したかのように
キデの顔から離れると、
そのままキデのおっぱいへと降りて行った。
小振りなせいもあるのかも知れぬが、
トオルはキデの乳房を揉むことはない。
前作でも書いたが、
母親の乳首を求める子のように
いつでもトオルはキデの乳首を口に含むのだ。
そんなにキデの乳首に執着しているわりには
舌先で転がすとか言ったような、
大人の男ならではの
愛撫の技巧を用いるわけでもなく
無心にキデの乳首を吸うさまは
決して飲むことの出来ない、
キデの母乳を待ち焦がれているような
そんなひたむきさがあった。
そんな不器用なトオルの愛撫さえも愛おしくて
キデは左手でトオルの整髪料でこわばった
髪の毛をくしゃくしゃと何度も揉みながら
右手はやはりトオルの手を求めて伸ばした。
トオルもそんなキデの手に気付いたのか、
決してキデの乳首を離なすことなく
キデの手を取ると指を絡めて握り返した。
いかなる体勢であろうと、
可能な限り貪欲に肉体の接触を
求め合う2人なのだった。
to be continued…
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