トオルとの逢瀬の前の晩、
宵っ張りのキデが
ブログ記事の執筆に集中し過ぎて
結局寝たのが午前2時前だった。
いつでもキデはまとめて
公開2‐3日分の記事を用意しておくのだ。
しかも、明日の昼は、
トオルとの逢瀬の真っ最中なので
いつものように正午には上げられそうにない。
それでもトオルとの逢瀬を終えて
帰宅したら直ぐにでも
ブログ記事を上げられるよう、
今のうちに準備しておきたかったのだ。
翌朝10時に待ち合わせなので
そこから逆算して、
身支度に人一倍時間のかかるキデは
たっぷりとした朝風呂の時間を加味しても
どうやら朝5時に起きないとならないようだった。
でも、どうせ明日に備えたいって
早めに寝たとしても
ショートスリーパーのキデは、
4時間後ぐらいには目が覚めてしまうのだ。
それに数時間後には
トオルとの逢瀬が控えていると思えば
どこかでずっとそわそわと
気持ちが落ち着かないでいるので
余計にぐっすりと眠れるとも思えなかった。
一方でトオルは、次のような
ラインを送って来ては、早々に
24時半頃には平和に就寝したらしかったが。
「今日はもう寝るよ!
明日に備えて、ひとりでせずに(笑)」
キデがブログの中で、
「一人Hの時に調子が良かったとしても
いざ本番ではそうとは限らない!
一人Hの時のコンディションを
過信するな!慎重に用心して備えよ!」
と書いたことがあり、それを守れずに
過去に何度も無様なPをキデの前で
披露してしまったことがあったので、
さすがのトオルも今回ばかりは
キデのアドバイスを守るらしかった。
日頃のストレスの蓄積が
身体にどれだけの影響を与えるのか
それを痛いほど、第1愛人でもあり、
キデのパーソナルトレーナーでもある、
教祖様から学んだキデは
自宅から体重計など、
とうの昔に撤去してしまっていた。
日々の体重の増減など、
無用なストレスを与えるだけで
ボディメイクには全く意味をなさぬ。
大事なのは、目標体重を設けることではなくて
自分の身体をどのようなイメージで
作り上げたいのか、なのだ。
確固たるイメージさえ出来れば、
脳はその命令を受けて
自ずとそのイメージへ寄せようと
身体へ働きかける。
そこでキデが常に意識するのは、
キデが私淑して止まぬ、永遠のエレガントのアイコン、
ジャクリーン・ケネディ・オナシスのように↓
’50-60年代のアメリカの良家の婦女子が装った、
女性らしくて上品なファッションを着こなすことであり
同時に、日常茶飯事的にメンズとの逢瀬を謳歌するキデは
彼らが望む、痩せ過ぎず、太り過ぎずの絶妙な、
中年女性としての体型を維持することを意識していた。
そして、逢瀬の前には、知らずのうちにキデの身体に
女としての緊張が走り、身体が引き締まっていくのを感じた。
それを強化して仕上げるかのように、
キデは何度も裸体の自分を姿見で確認しては
私はもう今からトオルを
この身に受け入れる態勢が出来ているの
と、呟いた。
そして、女としての私が覚醒するとも。
身体が冬の緊張から解放され緩みがちな春の気候と
最近ずっと欠かせないでいるシャンパンのせいで
キデのウエスト回りが若干、
緩やかになったきらいがあるものの
出逢った頃からずっとキデのことを
華奢だというトオルには
これぐらいの身体の甘さ、
豊かさがあった方がいいのかも知れないと
キデは自分に都合よく言い訳をした。
*****
ろくろく3時間も眠れていないのに、
キデは5時の目覚まし時計が鳴る前に
ひとりでに目が覚めた。
完全に目が覚めるまでの
グズグズする時間さえ惜しく
キデは何も考えずにベッドから出て
風呂場に向かうと、浴槽を洗いお湯を張った。
身支度に人一倍時間のかかるキデは、
わざわざ激務の合間を縫って
はるばる逢いに来てくれる
トオルを待たせなくない、
せっかくの2人の逢瀬の時間を削りたくないと、
こまめに時計を見て時刻を確認しながら
取り組んだ。
午前9時過ぎ頃には、キデの身支度も大体終わっていた。
もうそろそろ、トオルから自宅を出発したとの連絡が
来てもいい筈なのに、一向に来そうな気配がないわ
そういえば、起きたという連絡さえもない。
ひょっとしたら、毎晩仕事で午前様のトオルのこと
寝過ごしてしまっているのではないのかしら?
そう考えだすと、キデは不安で
居ても立っても居られなくなり
ラインでトオルへ
「起きてる?もう出発した?」と送った。
そわそわしながら少し待っても
既読さえもつかなかったので
「既読もつかないから、悪いけど、
今から電話してみるよ」
と一方的にラインを送り付けると、
やはりこれ以上待ちきれなくなった。
キデはスマホを持って電話をすべく、
夫に聞こえぬよう、奥にクローゼットがあり、
着倒れのキデの衣装がたくさん掛けてある、
衣裳部屋へと消えた。
おびただしい衣類が緩衝材となって
トオルとの会話を少しでも
聞こえにくくしてくれるだろう
とのキデの希望もあった。
尤も、キデより17歳年上の夫は、
既に耳が遠くなり始めていて
そこまで慎重にする必要はなかったかも知れぬが、
やはり慎重に越したことはない。
呼び出し音はずっと鳴り続けるものの、
結局トオルは出なかった。
どこかでキデも
トオルは電話に出ないだろう
と分かっていたので
それほど落胆することはなかった。
トオルは去年の夏から
単身赴任でこの地にやって来て
お世辞にもあまり生活能力が高い
とは言えない彼は、それでも自分一人で
どうにか生活の全てを切り盛りしている。
私との約束を覚えているものの、
寝過ごしてしまっているか
それとも職場でやんごとなき事態が発生して
その対応に追われてしまっているのか、
そのどちらかだろう。
ちょうどキデの自宅から車で
1時間ぐらい西の地域に住むトオルは
いずれにせよ、
今の時間帯にもう家を出ていなければ
キデとの逢瀬の時間に
間に合わないと言うことだ。
どうするつもりなのかしらん?
逢瀬をキャンセルするのかしらん?
と思っていた矢先
トオルからラインが入った。
「起きてるよ!!」
キデも間髪置かずに返事をした。
「それは良かったわ」
to be continued…
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