いつもの待ち合わせ場所で
懐かしいトオルの車を見つけると
自然とキデは小走りになっていた
お待たせと言って、キデが車に乗り込むと
トオルは目を細めてキデを見つめた
そしてすぐさま、キデの右手を取ると
キデの手の甲を口元に持っていき
キスをしたかと思えば
そのままいつまでも離さずに
匂いを嗅いだりしていた
他県から単身赴任してきたトオルは
この数か月の間に何度も
キデと逢瀬を重ねたというのに
未だにカーナビ頼みで
キデの自宅から近い、ホテル街までの
道のりを覚えきれずにいた
無邪気過ぎるわ
そして、無防備すぎる
そんなトオルを
いつでも苦笑しながらも
愛おし気にキデは見守った
本当にこの人は、部下をたくさん従える
幹部役員なのかしら
尤も、キデはこうして逢瀬しているときの
トオル自身にしか興味がなく
それ以外での彼の肩書や役割など
全くどうでも良かった
彼の姓を気紛れに訊いてみたのも
出逢ってずっとしばらくしてからのことだった
やがてホテル街にさしかかり
どこのホテルにしようかとなったとき
キデはいつでも少し緊張してしまう
ペーパードライバーのキデは
他のメンズとの逢瀬でも
待ち合わせ場所を自宅近所にして
そのまま近所のこのホテル街へ向かうからである
面倒臭がりのキデはいつでも
大体同じホテルを利用するのだが
男にしては勘の鋭すぎるトオルは
そのときの気分次第で
「ここは他のメンズと行ったホテルなんだろ?」
と絡んでくることがあるからだ
尤も、それは図星であったり
そうでなかったりするのだが
そのくせ、二人だけの行きつけのホテルを作っても
果たしてそれはどこだったのか
覚えきれてもいない2人なのであった
1軒目のホテルは既に満室で
2軒目のホテルは敢えてホテル街の外れにある
2人とも行ったことのないホテルにした
他県から赴任してるトオルは
「ここの県はホテルがまとまってあるんだね
それは少し珍しいな
普通は街中にぽつんぽつんと
点在しているものだけど
ここの県のひとは、H好きなのかな」
と言った
確かに他県のメンズからも
同じようなことを
言われたことがあったわねと
キデはひそかに思った
to be continued…
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