「俺、犬を飼っているんですけど、四国犬なんですよ…」
はぁ、犬飼ってる…それも、余り聞いたことない、四国犬ねぇ…
あたしはぐったりとうつ伏せになったまま、
特にリアクションすることなく、黙って聞いていたわ
一体、この坊やは何を話し出すのかしら…?
「…」
あたしが黙って聞いていると、何の反応のない様に
ふとカイトも不安になったのか黙り込んだの
「…カイト、心配しなくても聞いているよ、続けて」
「…それで、俺、その犬に餌をやるのを忘れて来たんです」
「は?」
「今、スマホ見たら、かーちゃんからLINE来てて、
『犬に餌やり頼む』ってあって、俺、それを見落としてて」
「はぁ…誰か、家族の人に頼めないの?」
「うちのかーちゃん、シンママで看護師してて、今日は夜勤なんです
愛人ならいるけど、とーちゃんとはとっくの昔に離婚してて」
「…なるほど、それじゃ、誰も餌やる人がいないというわけね」
「…はい、すんません、だからこれから帰らないと」
うーん、そっか…食欲は性欲と並んで大事な三大欲求の1つだからな
わんこ飢えさせてまでセックスなぞ出来ないなぁ…
…と言うわけで、あたしたちは図らずも1回戦だけ終えると
そのままホテルを出たの
カイトはどこか落ち着かない様子でボソッと呟いていたわね
「俺、これから高速に乗って帰らないと…
それから散歩させて、餌やらないと」
翌朝、カイトからKakaoが来たわ
「おはようございます
昨日のことを思い出して朝から1人でしました
今度はFとかされたいです!
乳首責めとかされてみたい!」
「そーね、それには事前にちゃーんとわんこの餌やりを
確認しておかないとね」
「はい!」
「Fねぇ…考えてみてもいいけど、それにはまず
性病検査を受けて来てくれる?」
だって、そーでしょ、
商売女としかしばらく寝て来なかった坊やだよ
恐れ多くも、Fキライのあたしにお願いするなら、
性病検査でまずは身辺をクリアーにしてからでしょ
それがエチケットっていうもんでしょ?
「性病検査?それってどーやってするんですか?」
そーやって質問するカイトに手続きを説明した後で
突然、彼と連絡がまーったく取れなくなってしまったのよ!
「ふーん、急に性病検査を受けることが面倒臭くなったから
あたしの前からドロンを決め込んだわけね…」
あたしはそんな見込みのない、坊やとはこれまでだなって思いながらも
いかんせん、あたし好みのベビーフェイスの坊やだったものだから
少なからずの落胆と未練がないまぜになった複雑な気持ちでいたのも事実ね
そーかと思えば、その数日後にふらりと気紛れにKakaoを寄越して来たり
まるであたしたちが性病検査について一度も話し合わなかった体で
あるいは、Kakaoの調子が悪くてこの間ずーっと連絡出来なかったんだと、
前代未聞の奇妙な言い訳なんかしたりして
だから!!
そこであたしもぷちーんと、堪忍袋の緒が切れたわけよ
それから、心底ガッカリもしていたわね
あんなに乳臭い、童貞臭い、あどけない顔をしておきながら
こんな、狡猾で相手のことを全然配慮しない、
最低なセフレとまーったく同じ振る舞いをしてしまっているのだから
はー、こんな無礼な振る舞い、一体どこで学んできたのかしら?
それとも、こーいう狡さって、天性によるものなのかしら?
やっぱ、ある一定数、こんな最低な輩がいるのよねぇ…
老いも若きも関係なく、ね
あたしは半分諦めと半分やるせなさとで、こんなKakaoを送ったわけ
これで少しは、まだ前途洋々である若造のカイトが反省してくれたいいなと
実にあわーい、うすーい期待を託しながらね
「カイト、キミは自分の都合が悪い、関心がないときは
こちらからの事務的連絡さえも無視して
自分が性欲を催した時だけ都合よく連絡を寄越して来る
あたしはキミの都合のいい女でもなければ、無料風俗でもありません
こちらはキミ以外にもセフレメンズならいるわけだし
これ以上、キミの無礼をガマンしてやり取りをしたいとも思いません」
この間されてきたよーに、このまま既読スルーされるのかと思いきや
「わかりました」とだけ一言、しおらしく返信してきたのよ
あたしが実は、敢えて「さようなら」との別れの文言を入れなかったこと
きっと、実年齢より幼いカイトには気付いて貰えなかっただろーと思いつつ
そもそもメンズが一言「わかりました」と返事を寄越して来るときは
往々にして、あたしのそんなささやかな意図以上の
含みを持たせたりすることがあったりするわと
ぼんやりとそんなことを思ったりしていたの
それが去年の年の瀬のことだったわ
そんでもって、そのあたしの読みは当たっていて、
正月明けに再びカイトからこんなKakaoがやって来たのよ
「あの時は本当にすみませんでした、自分がだめでした
もう一度チャンスが欲しいです」
思いがけない、カイトからのメールにあたしは
おかしくなって吹き出してしまったわ
それから、さて、一体どーしたものかと思いあぐねていたら
立て続けにカイトからメールが入って来たの
あたしへの返事はなかなか返さないくせに、
いざ自分が一方的に送り付けたメールには
早く返事を寄こせと催促してくる
本当に子供っぽくって、相変わらず、相手への配慮に欠けるヤツ!
「よかったら返事欲しいです、本当にだめですか?」
「自分が悪いと言いますか、子供みたいなことをしていたなと反省しました」
「ふーん、具体的にはどんなところ?」
「自分がやりたい時だけ連絡して、それ以外は無視で、
意味の分からない言い訳をしたところです」
ふーん、一応自覚あるんだ…それじゃ、確信犯だったのね、やっぱり
「あのね、にわかにはカイトのこと信用出来ないね
それに、覚えておくといいよ
あたし、何人もセフレいるから分かるけど、みんな必死だよ
あたしに捨てられぬよーにね
だって、なかなかサイトであたしみたいな、無料で、
しかも愛情とかの面倒臭いことも求めない女って見つけられないこと、
彼らはみんな熟知しているからね
だから、彼らはあたしからメールが来ると、必ず返事は寄越すし、
あたしからメールが来なくなると、忘れられてしまわぬよーに
挨拶程度のメールでも寄越して来るもんね
無料のセフレを確保しておこーと思うなら、あたしが相手でなくても、
相手にご機嫌取りのメールとかのコミュニケーション怠らずにすべきだね
それが嫌なら、お金で後腐れのない商売女を買えばいい
ま、今後のカイトの態度を見てから、どーするか考えるわ
あたし、あれからまたセフレが増えたし、困っていないから」
「わかりました、ありがとうございます
ところで、正月はなにしてたのー?」
「そんな白々しいお愛想はいいから、
まずは病院に行き、性病検査を受けろ」
この後、いくつかメールのやり取りをしたものの、
やはりまた性病検査の話が出たところで
舌の根も乾かぬうちにカイトのヤツは面倒臭くなったのか、
その後またもや既読スルー、
挙句の果てには未読スルーになったわね
フン、やーっぱり、三つ子の魂百までだったわね
この坊主の性根は死ぬまで変わらぬ!
もうこれ限りね、あたしのポリシーとして、
相手に「礼儀、配慮、感謝」の気持ちを抱けぬ者は
どんなにあたし好みであろーとも
どんなにあたしを魅惑するPを持っていよーとも
あたしはまたがらないのよ!
ホントにこれでサヨナラ!!
そーやって、あたしがカイトのKakaoのIDを消した後で
何気にカイトと知り合った、サイトHを見ていたら
あたし宛にメールが送られてきていたの
「初めまして、23歳と若造ですが、
寂しさを埋めれるだけの情熱はあると自負しております
良ければ、返信ください」
送り主を見てみると、ワタルとあったわ
カイトとほぼ同い年なのに、カイトと違って
えらくしっかりとした、大人びた文章を書くメンズねぇ…
捨てる神あれば拾う神あり、まさにこのことなのかしら?
とにかく、カイトとあたしのお話はこれでおしまいよ
さて、ワタルとあたしとのことについては…うふふ、どーかしらね?
ま、機会があれば、またお目にかかりましょ
それじゃ、またね~
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